鴨治晃次展

ポーランドより66年ぶりの帰国展鴨治晃次 展|不必要な物で全体が混乱しないように

EXHIBITION

展示内容

僕の仕事

何が正しい位置なのか。
正しい位置を探すこと。
探すことに戻ること。
多分そのことが仕事をする上でいちばん大事なことに思える。

1970年頃だったと思う、どうやったら石の存在を絵という平面に移すことができるのか僕は苦しんでいた。壁に立て掛けたかなり大きな白い画面と石の前に座って、その石の存在に対応する一つの点を鉛筆で画面の中に点をつけて探していた。その一点を探すことだけがその頃の僕の仕事であった。ある時には2〜3cm右にまたは左に動かして。自分にとって正しいと思う大きな石に対応する点の位置を探していた。そして別の日にその一点を通った垂直線を引く。僕にとってそれはその石の存在と石を取り囲んでいる空気と空間を表現できる手がかりのように思われた。そうして出来た4枚の作品はワルシャワのフォクサル・ギャラリーに展示され、僕はその作品に『二つの極』という名をつけた。
4枚の作品はギャラリーの床に置かれた石の対極として生まれたものだが、それが成功したかどうかを客観的に証明することは不可能だと思わる。しかしそれ以後正しい位置、正しい場所を探すことは僕の仕事にとって唯一の目的になったように思われる。
このたび展示された全ての作品は同じ目的、正しい場所を探す過程で生まれたものだ。僕にとって作品は石の存在の受け取りであり、自分の気持ちの集合体とでも言えるかもしれない。垂直の線は精神の集中の方向だ。

透明性と 単純性を目指し 不必要な物で全体が混乱しないように。

2025年某日 鴨治晃次






本展は、現在もポーランドを拠点に活動を続け、今年90歳を迎える鴨治晃次の日本で初めての本格的な展覧会です。1960年代から今日までに制作された20点の絵画、9点の立体作品、80点のデッサン、3点のインスタレーションが展示され、鴨治の小回顧展としてポーランドのザヘンタ国立美術館とアダム・ミツキェヴィチ・インスティテュートによって企画されました。
鴨治の作品には、しばしば私的な体験を想起させる要素がみられます。例えば1950年代末のポーランドへ向かう長期間にわたる船旅で体験した空間、空気、水に関連した要素や、友人の自死という悲劇的な出来事への回帰までもが作品として表現されています。
一方、鴨治はヨーロッパの抽象画の起源や、芸術における精神性の探究にも言及しています。彼の作品には制作の反復、徹底した集中力、ミニマリズムといったスピリチュアルな側面も見ることができます。
作品は作家の生活や物事、世界の本質に触れたいという願望から生まれたものです。空間の無限性・水の性質・空気などを表現しようとする彼の取り組みは自然の本質を直感的に理解しようとする試みと言えます。
また、和紙にシンプルな穴を開け吊るしたインスタレーション《通り風》(1975年)は時空を表しています。それは時間の経過を意味し、彼のルーツである日本の「あるがまま」という概念に通じます。これは様々な文化の交差点で制作活動をしてきた鴨治にしかない独自の表現です。

「透明性と、単純性を目指し、不必要なもので全体が混乱しないように」と語る鴨治の作品が、2025年の東京、ワタリウム美術館で、どのような存在感を見せてくれるのだろうか。

WORKS

作品

PROFILE

プロフィール

鴨治晃次_ポートレート

インスタレーション「静かさと生きる意志」(ザヘンタ国立美術館、2018)を背景に立つ鴨治晃次 photo by Marek Krzyżanek

鴨治晃次
Koji Kamoji

1935年東京生まれ、1953年から1958年にかけて武蔵野美術大学で麻生三郎、山口長男に師事。伯父の梅田良忠(東欧史学者、ポーランド文学翻訳家、ワルシャワ大学日本語講師)の話に影響を受け、ワルシャワ留学を決意。1959年、ポーランドへの船旅に出る。2ヶ月半の航海で感じた空間、水、空気の感覚はその後の鴨治の作品に大きな影響を与えた。
1960年ワルシャワ美術アカデミー入学。著名な画家アルトゥール・ナハト-サンボルスキーのもとで学び始め、1966年に修了。1965年クラクフのクシシュトフォリー・ギャラリーでレシェック・ヴァリツキとともに初めての展覧会を開催。アカデミー卒業後、1967年には伝説的なフォクサル・ギャラリー(Foksal Gallery)(1966年設立)で活動を始め、その活動はポーランド現代美術の発展史において重要な役割を果たしてきた。




ザヘンタ国立美術館とは

ザヘンタ国立美術館 (Zachęta National Gallery of Art )は、社会文化的生活の重要な要素として現代美術を普及させることを役割とする機関です。20世紀および21世紀の最も興味深い芸術表現が紹介される場所です。ザヘンタ国立美術館は、絵画、彫刻、インスタレーション、ビデオ、グラフィック、パフォーマンスなど、3700点近い作品を所蔵しています。 ザヘンタ国立美術館は、70年以上にわたり、世界で最も重要な美術展のひとつであるヴェネツィア・ビエンナーレのポーランド館および建築ビエンナーレの展示を監督し、企画するという任務を担ってきました。
www.zacheta.art.pl


アダム・ミツキェヴィチ・インスティテュートとは

アダム・ミツキェヴィチ・インスティテュート(Adam Mickiewicz Institute、略称 IAM)は、ポーランド文化を世界中の観客に紹介しています。国が設立した機関として、IAMはポーランド文化や芸術に対する長期的な関心を育み、ポーランド人アーティストの国際舞台での存在感を高めています。革新的なプロジェクトを立ち上げ、国境を越えたコラボレーションを支援し、高い評価を得ているポーランド人クリエイターや新進気鋭のクリエイターをプロモーションすることで、ポーランドの文化の多様性と豊かさを紹介しています。また、ポーランド文化に関する総合的なオンラインリソースであるCulture.plの運営も行っています。

過去の展覧会