という言葉や概念は、とらえどころのない漠然とした広がりを持っています。
この展覧会のタイトルは、あえて頭に「エンプティ」を付け、空っぽを強調しています。
東京という都市、あるいはそうした大きなエネルギ−の中心には、いつのまにか気泡のような空虚な場所が必ず現われます。これが今回のテ−マなのです。
もともと中国で庭は、二つの意味を持ち、一つは空地(くうち=何もない、手を入れない場所のこと)、もう一つはその対極で、山や川、滝といった自然の風景を人工的に再生する園林というもので、一般的に使われている「庭」ということばは後者に属しています。

この展覧会は、20世紀の最も重要なア−ティスト、ヨ−ゼフ・ボイスの庭から始まります。
ボイスが森でみつけた種を蒔き、植物学を学びながら造った小さな庭はその後の活動の源流となりました。さらに、3人の国際的に活躍するア−ティスト、また若い日本のア−ティストも加わり、精神的に、詩的に、あるいは科学的にこのテ−マを考え、取り組みました。

今回は、会場内のインスタレ−ションに加えて、ロイス・ワインバ−ガ−のル−フ・ガ−デン(ワタリウム美術館屋上)や、カ−ルステン・ニコライの『インサイド・アウト』と題されたサウンド・ガ−デン、路地裏の道草を作品に取り込んだものなど、屋外の作品も造られます。それらは、春から夏、秋から冬へと流れる時間を含んでいます。

実は、この空っぽの場所には、次世紀へこっそり抜け出すための道が隠されているのかもしれません。

ヨ−ゼフ・ボイス
Joseph Beuys (1921年〜86年)
1921年、ドイツ、クレフェルト生まれ。60年代にはフルクサス運動にも加わる。77年には「自由国際大学」を設立、82年のドクメンタ10において「7000本のオ−ク」の運動を開始。早くから自然や社会への強い働きかけを主流に活動を行っている。今回は1947〜51年ごろデュッセルドルフ芸術アカデミ−で彫刻を学んだ師エ−ヴァルト・マタレの家にボイス自身が造った庭をドキュメントすると同時に、初期ドロ−イングや立体を日本で初めて公開し、ボイス思想の源流を探る。

ロイス・ワインバ−ガ− 
Lois Weinberger(1947年ウィ−ン生まれ)
1988年以降ウィ−ンの自庭で育てた荒地植物を町の各所に植えるというガ−デン・プロジェクトを実施。 このプロジェクトは1994年にベルリンのブランデンブルク門で行われ、されに1997年のドクメンタRでは大きな反響を呼んだ。今回の「エンプティ・ガ−デン展」のために、昨年98年春よりワタリウム美術館屋上にル−フ・ガ−デンを制作。一年間まったく手を加えることなくサバイブし続けるこの庭は、「‥‥何も影響されていない場所とは、自由を意味する」という彼のスロ−ガンを表わし、「私のアイデアの運搬人や運搬車としての植物」は確実に東京に根付いた事を証明している。

オラフ・ニコライ
Olaf Nicolai(1962年、旧東ドイツ、ハレ市生まれ)
文学、哲学、記号学を学んだのちに、ベルリンとライプツィヒを拠点に「収集(コレクション)」を主なコンセプトとして活動を展開する。1997年のドクメンタ10では、自然なものと人工的なものとの区別に意義を唱えたミニチュア・ランドスケ−プを発表。1998年、第1回ベルリン・ビエンナ−レにも参加、話題を呼んだ。文学を始め広く日本文化を知る。

カ−ルステン・ニコライ
Carsten Nicolai
(1965年、ドイツのカ−ル・マルクス市生まれ)
カ−ルステン・ニコライは現在ベルリンを拠点に活動する新しい世代のア−ティストである。庭師として仕事をし、ランドスケ−プ・デザインを学んだという経歴を持ちながら、実際はサブカルチャ−の世界から現われるという特異な登場だった。1995年にはレコ−ド・レ−ベル「ノ−トン」を設立してCDをリリ−ス、作品の多くもサウンドとの深い関わりを持ち、「私は、サウンド、イメ−ジ、シンボル−−それらが生み出す想像上のエネルギ−に魅かれているのです」と語る。今回は、都市の隙間を迂回するという行為を作品に取り入れ、ちょうど茶室へ続く路地のように、緊張感のなかを別世界に誘います。
島袋道浩 
Michihiro Shimabukuro (1969年、神戸市生まれ)
1990年大阪美術専門学校卒業後、サンフランシスコ美術大学に編入、92年卒業。91年「タコ街道プロジェクト」、92年「贈り物」(京都)、93年「ゴリラ」(名古屋と石川)、94年「南半球のクリスマス」(神戸、広島)、97年「鹿をさがして」(茨城と東京)などのプロジェクト作品を展開。98年ア−ティスト・イン・レジデンスでマルセ−ユに2ヵ月滞在。99年はロッテルダム、マルセイユ、モントリオ−ル(カナダ)などで展覧会を予定。今回の「エンプティ−・ガ−デン展」では、東京に生きる動物と人間の関係をテ−マに、野外プロジェクトを計画している。(9月)

粟野ユミト 
Yumito Awano(1964年、名古屋市生まれ)
金沢美術工芸大学にて工業デザイン専攻卒業後、商業施設設計に従事。映像と音楽のマルチメディア・ライブ・ショウを実施。専門学校や大学の講師、助手を勤めた後、東京芸術大学大学院色彩学研究所で学ぶ。91年「ヤン・フ−ト氏の現代美術一日大学」に参加、99年第二回岡本太郎記念芸術大賞、準大賞を受賞。本展では、街のなかの、普段あまり気づくことのない“音”にフオ−カスをあて、作品制作を行う。

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