奈良さんと会ったときは、こうした旅をともにするなんて思ってもいなかった。ぼく
だけだったら決して出会うことのなかった人や場所を通して、自分の中にあった地図が次々と塗りかえられていった。
青森や北海道は日本列島の端にありながら北方世界への入口だった。サハリンはロシアという大国の東の果てにあるけれど、本当は南北への扉を開いている島だった。
自らの意志とは異なる偶然に導かれた北の地には見たことのない新しい世界があった。ふと後ろを振り返ると、かつて自分が立っていた場所さえもまったく違って見えた。そんなかけがえのない道行きを、写真によって少しでも分かち合えたらいいな、と思っている。
石川直樹
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きっかけが何だったのか思い出せない。
「青森県と北海道のアイヌ語地名を訪ねてみよう」
そんな思いつきから足を踏み出したのかもしれない。
それが青森、北海道の旅となり、
サハリンにまで足を延ばすことになっていった。
きっかけが思い出せないので、旅のゴールも曖昧なまま、
気が付けば、石川くんと北へ北へと移動していた。
人との出会いや風景、そこから見えてくる人生や歴史。
何が自分の心をとらえたのか、何を想ってシャッターを押したのか。
今まで自分がいた場所からどれだけ動くことができたのか。
確実にわかることはひとつ、そこより北へ向かって思考し始めたこと。
そう、今いる、ここより北へ。
奈良
美智 |