会期
2002年11月29日(fri)−2003年4月6日(sun)
開館時間11:00〜19:00
*毎週水曜日は21:00まで延長
休館日:月曜日
*12月の月曜日は開館、12月31日〜1月3日まで休館。1月13日(祝)は開館
入館料
入場料:大人1,000円 学生800円(25歳以下)
(期間中、何度も使えるパスポート制チケット)
1973年、シカゴ。身寄りのない81歳の老人が息を引き取った。彼が40年来住んでいたアパートの部屋には訪ねてくる人もいなかったという。アパートの大家は、老人の遺品を処分しようと、この雑然とした部屋に足を踏み入れ、大変なものを発見する。タイプライターで清書された1万5145ページの戦争物語『非現実の王国で』とそのために描かれた300余点の大判の挿絵だった。
アパートの住人、ヘンリー・ダーガー(1892〜1973年)について、数人の研究者たちによって、20数年にわたる熱心な研究が続けられた。作品と作家ダーガ−の数奇な運命についてスキャンダラスに語られるばかりでなく、彼の独創的な想像力や表現手法からは、これらが単に「アウトサイダー・アート」という枠組みでは括りきれない比類稀なる才能によるものであることが読み取れる。こうして、近年、ヘンリー・ダーガーの作品は世界中でさまざまな形で発表され、大きな話題となっている。
ヘンリー・ダーガーは両親と死別し、幼年期をカソリック教会の孤児院で過ごしていた。そこで感情障害の徴候があらわれ、知的障害児の施設に移されたが、実際は精神遅滞ではなかった。重度の精神遅滞が多かったこの施設で、情緒的、知的に発達する機会を奪われたヘンリーは17 歳のとき施設を脱走、病院の清掃人兼皿洗いとして働き始める。そして一人で暮らし始めた19歳のころ、彼は執筆を始め、物語がほぼ完成に近付いたころには、この長篇『非現実の王国で』を絵で図解してみようと決心する。美術教育とは無縁だった彼が考え出した手法は、ゴミ捨て場から宗教画、カレンダー、新聞や広告などを拾い、そこから夥しい数の女の子の絵を切り取り、ぬりえ風の太い輪郭線で女の子をトレーシングしていくことだった。トレースされた少女たちは裸体にされ、小さな男性器を加えられた。それぞれの人物イメージはコラージュされ、全体に彩色を施し、大きな画面へと構成されていった。
この戦争物語『非現実の王国で』の主人公は、こうして創り出された7人の可愛らしい少女、ヴィヴィアン姉妹。少女たちは人間離れした善良さ、勇気と戦略の才能を備えて邪悪な大人たちと勇敢に戦い続ける。アメリカの南北戦争史の知識を持ったヘンリーのこの物語は、奴隷制をめぐる戦いの歴史であり、ぬりえから飛び出した可愛らしい少女たちの姿とは、まったくアンバランスな渾沌と暴力でおおわれた破壊の王国が舞台となっている。
今回のワタリウム美術館での展覧会は、ヘンリー・ダーガーの48点の大判のドローイングとその物語を紹介する日本で初めての本格的な回顧展となる。
ヘンリー・ダーガー展 レクチャー・シリーズ
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連続4回 19:00〜21:00
参加費 各2,500円、全4回通し6,000円
2003年1月11日(土)
ヘンリー・ダーガーの心の中− 精神病理学の視点から
子供の自閉化、家庭内暴力、接触障害、いじめ、凶悪犯罪。青年層の対人関係の変容。中高年の抑うつ、自殺。高齢者の抑うつなどの現代人の精神的葛藤について、あるいは、阪神大震災の災害救援や北朝鮮問題、様々な事件を通して人々のこころや社会意識について、精神病理学の視点から、鋭い分析を行ってこられた野田正彰先生をお迎えし、ヘンリー・ダーガーの心の中を探ります。
講師:
野田正彰
(のだ まさあき)
評論家、京都女子大学教授(精神病理学)。 著書に『させられる教育』『戦争と罪責』『喪の途上にて』『国家に病む人々』など多数。
2003年2月8日(土)
孤独の創造−ヘンリー・ダーガーと老人たち
新しさが求められるアートの世界では、過度に「若さ」が優遇されるきらいがある。しかし、もしも作家がひとつの想念に取り付かれ、寝食も忘れてそのヴィジョンの実現に取り組んだとしたら、どうだろうか。彼は発表や評価の機会を忘れ、いつしか老いていく。彼の生み出すものは、美術館や美術市場といった現在のアートのルールには収まり切らないものとなっていく。なにか得体のしれないもの、むしろ、そこにこそアートの可能性が眠っているとはいえないか。ダーガーへと至る、20世紀の知られざる創造の系譜を紹介する。
講師:
椹木野衣
(さわらぎ のい)
1962年生まれ。同志社大学文学部卒業。 1991年より美術評論活動。著作に『シミュレーショニズム―ハウス・ミュージックと盗用芸術』『資本主義の滝壷』『日本・現代・美術』『22世紀芸術家探訪』『岡崎京子論―平坦な戦場でぼくらが生き延びること』など多数。
2003年2月15日(土)
ヘンリー・ダーガーを索めて
「私の人生には、ほとんど出来事と呼べるものがなかった」と、ヘンリー・ダーガーは5084頁に及ぶ自叙伝を書き出している。シカゴの郊外にある彼の墓には、「子供たちを守り続けた芸術家」という銘が刻まれている。思うにこの偉大なる夢想家は、現実においてこそ孤独であったかもしれないが、ひとたび秘密めいた少女たちの宇宙の住人となったとき、無限の至福のうちに生きる力を授けられたのだ。ダーガーはフーリエの中断されたユートピアの後継者であり、複製技術時代の先駆者である。しかし彼はそれ以上に、子供たちのためのラブレーなのである。
講師:
四方田犬彦
(よもた いぬひこ)
1953年生まれ。東京大学で宗教学を、大学院で比較文学を学ぶ。映画、文学、漫画など幅広い批評活動を行う。現在、明治学院大学教授。著書に『月島物語』、『電影風雲』、『日本映画史100年』など多数。
2003年2月22日(土)
ヘンリー・ダーガーのファリック・ガールズ
ヘンリー・ダーガー。この偉大なるひきこもりのアウトサイダーは、まさに世界の外側に立ちながら、自らの手になる「非現実の王国」を、いかなる現実よりも大切に育もうとした。彼の世界を破滅から救うヴィヴィアン・ガールズは、巨大な龍を従えて戦闘におもむく可憐な美少女たちである。ペニスを持った美少女=ファリック・ガールズを生み出したダーガーの創造性は、果たして何に由来したか。その世界観は、いまや戦闘美少女が跋扈するわが国のサブカルチャーと、いかなる通底回路を持つか、最新の研究成果をふまえて分析する。
講師:
斎藤環
(さいとう たまき)
1961年生まれ。筑波大学医学専門郡卒業。医学博士。精神科医。思春期・青年期の精神病理、病跡が専門。著書に、『登校拒否のすべて』『社会的ひきこもり―終わらない思春期』『戦闘美少女の精神分析』『文脈病―ラカン/ベイトソン/マトゥラーナ』など多数。
ワタリウム美術館
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前3-7-6
tel:03-3402-3001
fax:03-3405-7714
e-mail:
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